カテゴリ:新発見「サクラン」と伝統のスイゼンジノリ( 4 )

 地球環境の改善を追求しながら、経済発展を促すためには「バイオマス」という現生の生物を起源とする産業資源の利用が注目されている。これは非化石資源であり枯渇性のものでないことが重要である。人類がバイオマスを利用しながら全ての活動を行なえれば、永久的な繁栄を遂げられる可能性が出てくるのである。
 このバイオマスを対象にした科学をバイオマスサイエンスと呼ぶ。しかし、バイオマスという概念そのものがまだ若いので、バイオマスに関係する科学者はまだまだ少ない。だからこそ、この分野には多くの未発見の事実が隠されており、今後のバイオマスサイエンスの発展により驚くべき数々の発見が現れると期待できる。
 最近ではサトウキビなどからバイオエタノールを生産する技術が先行しているが、今後プラスチックや農業資材など他の産業への応用もどんどん広がると考えられる。
 日本政府は「バイオマス・ニッポン総合戦略」というものを定めているが、じつは日本が独自に生産できるバイオマスというのは非常に少ない。スイゼンジノリはその中の一つであり、しかも養殖がなされている将来性の高いバイオマスである。


新発見「サクラン」と伝統のスイゼンジノリ
新発見「サクラン」と伝統のスイゼンジノリ



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by beauty-moisture | 2017-02-24 11:05 | 新発見「サクラン」と伝統のスイゼンジノリ

半分以上は寒天質
 スイゼンジノリは単細胞生物なので、細胞体が集合して生育する場所が必要です。これが、細胞体の周りを覆っている寒天質です(写真8)。
 スイゼンジノリは、その重さの半分以上が寒天質から出来上がっており、その生産量は極めて大きいことが分かります。この理由で、スイゼンジノリはキクラゲのようにプヨプヨした感触を示すのです。
 もし、この寒天質がないと、せっかくスイゼンジノリの細胞が川の中で細胞分裂を起こしても、すぐに流されてバラバラになってしまいます。したがって、寒天質には細胞体を集合状態に保つはたらきがあります。

外敵から護るバリケード
 じつは、寒天質のはたらきはこれだけではなく、細胞を外敵から護るバリケードのような役割も持つと考えられます。
 何を隠そう、われわれ人間の体を構成する細胞の周りにも寒天質があり、細胞体を護ってくれています。人間のこの寒天質のはたらきは、太古の生物から受け継がれている作用なのです。

新規多糖類を命名
 この寒天質は、デンプンのような糖の固まりで出来ています。しかし、この糖は鎖のように連なった「多糖類」という状態になっており、まったく甘くありません。
 そこで、スイゼンジノリの寒天質に含まれる多糖類がどんなものなのか調べるために、以下の方法で取り出してみました。
 川から採取したスイゼンジノリを、ドライクリーニングのように有機溶媒で洗浄した後、アルカリ水に溶かすことで抽出した結果、繊維状の物質が得られました。
 この物質の構造を調べた結果、今まで見つかったことのない糖から構成された新規の多糖類であることが分かりました。
 そこで、発見者である岡島らは、この多糖類を、スイゼンジノリの種名である「sacrum」の語尾をan(多糖類という意味の接尾語)に置き換えることでsacran(サクラン)と名づけました(写真9)。


※写真省略


新発見「サクラン」と伝統のスイゼンジノリ
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by beauty-moisture | 2017-02-23 12:24 | 新発見「サクラン」と伝統のスイゼンジノリ

今は絶滅危惧ⅠA類に

珪藻類が大量に発生
 1993年までは、スイゼンジノリ野生株が大量に自生していた特別保護区内(面積約2700㎡)でも、流速の遅い場所では、ボタンウキクサなどがかなり繁殖するようになり、1996年5月以降、珪藻類のMelosira varians が大量に発生しました。
 ラン藻であるスイゼンジノリは、窒素固定を行なうため、水中の窒素濃度が低いほど、他の藻類との競合に適し、逆に、水中窒素濃度が上昇すると、ふだん清流に生育する珪藻類などが増殖を始め、スイゼンジノリは生存競争に敗れてしまいます。

進む富栄養化、減る湧水量
 表1に、著者(椛田)が会長を務める江津湖研究会(創立:昭和57年2月)が行なっている水質分析の結果を示しています。
 湧水湖である江津湖は、水温が年間を通じ約18~19℃とほぼ一定であり、pHも年間を通じpH7~8の弱アルカリ性です。
 しかし、全窒素(T―N)が、1990年では、2.9~3.1㎎/?であったのが、2005年では、3.8~4.3㎎/?と増加していました。これは、湧水(地下水)そのものが富栄養化していると推定されます。

“砂踊り”の箇所も消滅
 さらに、湧水量についてみると、江津湖およびその周辺の湧水量は、昭和37年には約89万?/日であったものが、現在では若干の年変動や季節変動はあるものの、平均すると約40万?/日 と半減しています。
 特別保護区内においても、“砂踊り”が観察されるほどの湧水が生じている箇所が25年前には7ヶ所ありましたが、現在、そのほとんどが消滅しています(写真7)。
 この湧水量の減少と、水質の富栄養化によって惹起された、珪藻類・Melosira varians の大量発生により、スイゼンジノリは光合成を阻害され、その野生株は一挙に激減しました。
 そして、1997(平成9)年秋、スイゼンジノリ野生株は、環境庁(当時)作成による植物版レッドリストにおいて、絶滅危惧ⅠA類(ごく近い将来、絶滅の危険性が極めて高い種)に分類されました。





新発見「サクラン」と伝統のスイゼンジノリ
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by beauty-moisture | 2017-02-22 09:18 | 新発見「サクラン」と伝統のスイゼンジノリ

日本固有の淡水性ラン藻

熊本・水前寺で発見
 スイゼンジノリ(学名:Aphanothece sacrum(Sur.) Okada)は、1872(明治5)年に、オランダの植物学者・スリンガーが、水前寺・江津湖(熊本市)において発見し、新属新種のラン藻として『日本藻類図鑑』の中で世界に紹介した淡水産ラン藻の一種です。
 スリンガーは当初、学名を、Phyloderma sacrum Suringarとしました。Sacrum (サクルム)とは、「神聖な」という意味で、彼が発見地である、水前寺・江津湖に敬意を表して、この形容詞を用いたと言われています。
 その後、1953(昭和28)年、動植物学者・岡田喜一氏は、これが水田に生えるハマミドリの同属として、学名を改め現在に至っています。

キクラゲに似た寒天質の塊
 日本固有種であるスイゼンジノリは、一見、キクラゲを思わせる緑褐色ないし茶褐色の寒天質の塊(写真1)で、湧水のような美しい水に限って生育します。
 寒天質の中には、多数のマユ型単細胞(写真2)が散在し、常時、2分裂しながら、同時に細胞外に粘性物質を分泌して増殖します。
 スイゼンジノリ本体(細胞)の大きさは、短径:3~4マイクロ、長径:6~7マイクロであり、顕微鏡でなければ、観察できません。



新発見「サクラン」と伝統のスイゼンジノリ
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by beauty-moisture | 2017-02-21 08:34 | 新発見「サクラン」と伝統のスイゼンジノリ